『It G ma』で突如アメリカのヒップホップシーンの話題をさらった韓国出身のラッパーKeith Ape。
ニューヨークの老舗ライブハウスSOB’sでは伝説の超満員ライブを行い、USヒップホップの歴史にアジア人ラッパーとして前人未到の爪痕を残しました。
今回は、そんなKeith Apeのプロフィールやファッション、代表曲、MG Magoとの確執などについて、解説していきたいと思います。
目次
Keith Apeのプロフィール
iflyer.tvより出典
出生名 | Lee Dongheon(이동헌/イ・ドンホン) |
別名 | Kid Ash |
生年月日 | 1993年12月25日(29歳) |
身長 | 176cm |
出身地 | 韓国 ソウル特別市 |
レーベル | 88rising・Hi-Lite Records |
Keith Apeは1993年12月25日、韓国のソウルに生まれ、ソウル中心から電車で1時間ほどの郊外、ブンダンで育ちました。本名はイ・ドンホン(이동헌)です。本人曰く、「そんな悪いことはしなかったけど、問題児」だったそうです。
あるインタビューで、Keith Apeは小学校5年(韓国の学校制度は日本と同じ6・3・3・4年制)の頃にラップ、そしてヒップホップ シーンそのもののクールさに憧れ始め、今でもその時抱いた夢を追い続けている、と語っています。
実際にKeith Apeがラップを始めたのは12歳の頃でした。韓国のヒップホップユニット、Epik HighやDrunken Tiger、Dynamic Duoなど、その頃の韓国のヒップホップシーンを盛り上げていたアーティスト達に影響を受けたことがきっかけでした。また、14歳の頃に聴いたNasとAZ Tradeの『Life`s a Bitch』によって、音楽を聴く耳が変化したと語っています。
その後自分で曲も作り始め、17歳の頃には高校を中退し、本格的に音楽制作に没頭します。Kid Ashの名前でSoundCloudに楽曲をアップロードしたり、友達と作ったビデオをYouTubeに公開したりしていました。しかしその頃は全く希望を見出せていなかったそうです。それでも小さなレコーディングスタジオで長時間過ごし、必死で練習を積み重ね、スタジオで寝泊りすることもあったそうです。家に帰ると、彼の音楽教師である父親が息子の行く末を思い嘆き悲しんでいたのだとか。
しかし、転機は2012年に訪れます。当時から韓国のアンダーグラウンド・ラップシーンを牽引していたグループThe CohortのOkasianが、プロデューサーのところで偶然Keith Apeのボーカルを耳にし、その声と、フロウ 、言葉遣いや発音に他のラッパーにはない可能性を見出します。
OkasianはKeith ApeをThe Cohortを創設したOscar Leeのもとへと連れて行き、Keith Apeはクルーに加入します。加入当初から、グループ最年少ながらメンバーからは天才と称されるほどの実力と存在感だったそうです。
Keith ApeはThe Cohortのファースト・アルバム『탑승수속(搭乗手続)』に数曲フューチャリングで参加、そして、2015年、『It G Ma』(韓国語で”忘れるな”の意味)がYouTube配信されます。この曲はKeith Ape、そしてアジアのラップをグローバルなものに押し上げることとなります。
jpopasia.comより出典
そしてこの頃に韓国のレーベル、Hi Lite Recordsと契約、それまでのKid Ashから、Keith ApeへとMCネームを変えます。名前の由来は、彼が幼少の頃から夢中だった、キース・ヘリング。Keith Apeとは、彼の中で、最高に洗練されている、と思うものと、その正反対の、類人猿(Ape)とを組み合わせ、完成したMCネームなのです。
『It G Ma』以前にThe Cohortがリリースする曲はYouTubeでの再生回数は5万回再生されれば良い方でした。しかし、アメリカのラッパー達がこの曲に注目したことが発端となり、『It G Ma』はわずか数日でその数字に達し、その年のうちには1,000万回近い再生回数となるバイラルヒットを起こしました。
ロサンゼルスを中心に活躍しているベテランラッパーのDumbfoundeadは、88rising(ニューヨークを拠点としたデジタルメディアプラットフォーム)の設立者であるSean Miyashiroに『It G Ma』を電話越しに聴かせました。SeanはKeith Apeをアメリカに連れてこようと、すぐさま行動に移します。Seanは「彼らが作り上げた映像も、自分たちの見せ方も、とにかく完璧だと思った。お金もかけてないのに。Keith Apeにはもっとすごいことができるはずだって確信したんだ。」と後に語っています。そしてKeith Apeは単身、ロサンゼルスのアーティスト地区へと移り住むこととなりました。Keith Ape個人としては、自分自身の人生についての根源的な問題に悩んでいた頭を、すっきりさせるための渡米だった、と言います。「当時は音楽を第一に考えることができなかった。もう一度音楽を作るために、突破して、リニューアルしなければならないと思っていた。」と語っています。
2015年にはニューヨークの老舗ライブハウス、SOB’sにおいて、今では伝説として語り継がれるライブを行います。Keith Apeの韓国語ラップを、超満員のアメリカ人ファンが大合唱するという奇跡的なライブは、間違いなくUSヒップホップの歴史に残る大事件でした。
Keith Apeは渡米後の3年の間、アルバムリリースすることなく過ごしました。そして、2018年の9月に6トラックEP『Born Again』を88risingよりリリースします。『Born Again』のアートワークを担当したのは漫画『TOKYO TRIBE』の井上三太です。
Keith Apeは「誰も見たことがない、そしてこれからも2度とアジアからは現れないアーティストになりたい。」と語っています。長い休止の後に”Born Again”したKeith Apeの、これからの動向が楽しみです。
『It G Ma』をめぐるOG Magoとの確執
hiphopkr.comより出典
マッコリ片手にKeith Apeが暴れ回る『It G Ma』のミュージックビデオがアメリカで話題となった背景には、アトランタのラッパーOG Macoの存在があります。『It G Ma』の楽曲とミュージックビデオの構成が明らかにOG Macoの『U guessed It』を参考にして作られたものだったからです。
『It G Ma』のミュージックビデオを見たOG Macoは自身のツイッター上で「俺の真似をしている韓国人のことなら知っているよ。いいとは思わないし、感心しない。ダサいね。」と言及し、このことも手伝って『It G Ma』のアメリカ国内でのYouTube再生回数が爆発的に上がりました。そしてネット上に、「Keith ApeはOG Macoのワナビー(誰かに憧れて真似してるだけの奴)だ」というようなコメントが溢れました。OG Macoのファン達がKeith Apeを激しく糾弾するなか、OG Macoが感じていた不満はファン達とは少し違っていました。
「俺はビデオの中でグリル(歯にかぶせるアクセサリー)を付けたり、でかいジャケットを着たり、リーン・カップ(ドラッグを入れるカップ)を持っていたりしないのに、彼らはなぜそれを使ったんだ?黒人のステレオタイプじゃないか。」
OG Macoのこのコメントから感じられるのは、単に作品を真似されたことへの怒りなどではなく、アメリカの黒人が長い間直面してきた人種差別への問題意識です。現にOG Macoはその後テキサス州で開催された大規模イベント、サウス・バイ・サウスウエストに出演するために渡米してきたKeith Apeと顔を合わせた際に「俺が戦っているのはシステムであり、この男ではない。」とのコメントとともに、Keith Apeと一緒にカメラに向かって中指を立てた写真を投稿し、加熱するファンの議論を諫めたのでした。
Keith Apeのファッション
valentino.comより出典
アジア人らしいクールな目元と幼さの残る、個性的ながらも端正な顔立ちに、いつもどこか退廃的な表情。スタイリッシュなタトゥーと華奢な体つき。Keith Ape独特の強烈な存在感は、ファッションアイコンとしても注目され、アメリカ西海岸発のブランド、Pink DolphinやCalvin Kleinにモデルとして起用されています。また、2019年のヴァレンティノの春夏メンズコレクションのファッションショーにて、ヴァレンティノ2018年プレフォールコレクションのルックに身を包んで登場しています。
また、K-POPアイドルグループ、BIG−BANGのG-DRAGONのブランド、PEACEMINUSONEのパリでのコレクションのパーティに出席したことでも話題となっており、今後G-DRAGONとブランド展開をする予定もあると言われています。
Keith Ape自身のファッションは擦り切れたスキニージーンズにコンバースと、パンクスっぽいコーディネートが多いようです。A BATHING APEやVANSなどのストリート系ブランドのアイテムの着用が見られます。『TOKYO TRIBE』から生まれたSARU Tシャツもライブで着用していました。
bloomint-music.comより出典
Keith Apeの代表曲
It G Ma
この曲にはThe CohortのクルーメンバーであるOkasionとJayAllday、注いて日本のラッパーKohhやSQUASH SQUADのLOOTAが参加しました。韓国語、日本語、英語がミックスされたドープなフロウのサウストラップに、毒々しいまでのサグさが刺激的な映像のミュージックビデオはYouTubeで現在、再生回数7,700万回を超えています。Dumbfoundeadはこのビデオに対し、「低予算で作ったクールなビデオが、韓国によくある莫大な予算を投じて作ったビデオに対抗できてるのが嬉しいね」と語っています。ビートはKohhやJayParkやDOK2などへの楽曲提供で知られている、プロデューサーのJuior Chefが制作しました。この曲は2015年のBillboard K-TownのK-Popのミュージックビデオ部門の第2位にランクインしました。
Gospel
若干16歳の時にSNS上で話題になり、米ピッチフォーク紙には「アメリカのアジア人に対するオタク的なステレオタイプを壊した。」と評されて話題にとなったインドネシア人ラッパー、Rich Chiggaとのコラボレーション曲。プロデュースはマイアミを拠点とするラッパーでプロデューサーのRONNYJです。
Going Down To Underwater
フロリダの注目ラッパーSki Mask the Slump Godをフューチャーした曲です。大人気アニメ『サウスパーク』にオマージュを込めて制作された曲で、実際のトラックも『サウスパーク』のオープニングテーマをサンプリングしたもの。ミュージックビデオではKeith ApeとSki Mask the Slump Godがサウスパーク風のアニメキャラクターになって登場します。
アジア人ながらも世界のヒップホップ シーンで、新たなトラップ・スターとして注目されているKeith Apeの今後の活躍に、大いに期待したいと思います!
韓国ヒップホップグループとラッパーについてもっと知りたい方は「おすすめの韓国ヒップホップグループ&ラッパー20選【2020年最新版】」を参考にしてください。